覆面の北枕

俺ってやっぱり冷血漢って思われているのかな？

否定はしないさ。

事実その通りだと思う。

しかし、血の通った甥二人を見ていると可愛くて可愛くて仕方がない。

こいつらのためならなんだって出来るなぁと思わず目が細くなる。

子供のいなかった上杉謙信は甥である景勝をすこぶる溺愛したという。

その気持ちよく分かるな。

自分の娘に関して言えば離婚してから一度も会っておらず、抱いたのも結局二回きり、実際目の前にいれば溺愛するのは間違いないでしょうけども、今の気持ちを正直にいうなら姿形が見えない分、目に見える甥二人の方が断然可愛い。

娘が夢に出てくることはないが甥はよく現われる。

もちろん、勝手な言い分でずーっと一緒に暮らしていれば娘の方が可愛いに決まっているが、今となっては他人だ。

自分自身、恐らく今後誰かとまた結婚するなんてことはなく、このまま朽ち果てていく運命だと思っているし、またそうやって野垂れ死ぬことこそが一つのケジメだと思っている。

そこに悔いは微塵もない。

むしろ、悔いどころか、二つの命があることで血を絶やさずに済んだと内心ホッとしている。

ちなみに、俺の生きる原動力に欲はまったくない。

別に贅沢をしたいとか、いい女を抱きたいとか、いい車に乗りたいとか、そんな欲はまったくなく、あるのはいつか死ぬときに甥二人に幾ばくかの金を残してやりたい、ただそれだけ。

正直、自分の生活なんてなんだっていい。

俺は食生活上、長生きは出来んだろう、恐らく人生の折り返し地点はもうとっくに過ぎてんだろうよ。

死んだときに甥二人が俺のために泣いてくれたらこんな幸せなことはない。

いい人生だったと旅立てる。

その日のために今は必死に歯を食い縛って踏張るだけですけどね。

夏の終わりに。