if vol.3 【R-15指定】
- 2023/11/01
- 22:51
数日後、兄貴から突如妙なことをいわれる。
「覆面くん、Mと付き合ってるのか?まあ、付き合ってても構わないが……」
Mとの関係は単純だった。二度金を払って抱き、偶然駅前で何気ない会話を交わしただけ。そんな関係だから、彼女のメアドや電話番号はもちろん、本名すら知らない。知っているのは源氏名のM。但し、少しだけ事情が複雑なのは彼女の住まいを知っていた。兄貴の店の送迎車に乗って遊んでいるとそのまま仕事がハネたMを自宅まで送っていくことが何度かあった。だが、それ以上のことは一切なかった。個人的に尋ねって行ったことももちろんない。
「いったいその付き合っているという噂、どこから出てんすか?」
「本人から」
思わず仰け反りそうになる。
信じられない。変に誤解をされても困るので彼女と駅で話したのは兄貴にも報告済み。M自身がそんな噂を広めているとは……。
キャバクラや風俗の世界には女の子にやさしくされた男がこじらせて、◯◯ちゃんは僕の彼女なんだと勘違いする男がいる。残念ながらこの手合いは単なる金づる、カモでしかない。
しかし、Mの場合は逆だった。俺が金づるとは程遠く二度しか買っていない。指名客のなかには月に何度も来ていた人もいるだろう、そっちの方が俺の何倍も金づるだ。
考えれば考えるほど納得がいかない。俺が知らないところで俺はいったい誰と付き合っているというのだ。
しかし、実際のところ、俺はあまり気にならなかった。それどころか彼女ほどの美女に彼氏だと思われるのは、正直、悪い気がしない。むしろ誇らしくもある。ただ、絶対に一線を越えることはしないつもりだった。それは、Mとの関係を本当に進展させること。
先に情を交わしながら一線を超えるとは片腹痛いが情交はきっかけのひとつであり、目的ではない。一見生々しく不純な交際に見えるが一般的な恋愛と大差はない。俺たちはそういう不埒な世界で生きていると思えば不純どころか健全にすら思える。この歪んだ価値観は一種の職業病かもしれない。
兄貴に頭を下げれば兄貴の性格からして笑ってMとの交際も認めてもらえるだろうが、女絡みで自分を見失い、大切なものを失うのは不本意だ。兄貴と俺、互いの心にしこりを残したくない。
そもそもMが吹聴しているのも別に俺に気があるわけではなく、単なるかまってちゃんのネタとしていっているのかも知れない。単に使い勝手のいい男だから名前を出しているだけというのも十分あり得る話だ。
何ゆえ、ネタにしているのか皆目見当もつかないが、また抱きたくなったら金を払って買うだけの関係でいいと思っていた。抱きたくならなければそれでおしまい。
好きか嫌いかの二択でいえば、確かに好きには違いないが、それも二択で迫られたから「好き」と書かれたカードを選んだに過ぎない、恋愛感情とは少しどころか、かなり違う。
寝ても覚めてもMのことばかりを考えているのが恋というのならもはや遠いところにいる。
いまとなっては初めて兄貴に頭を下げて買わせてくれと頼み込んだときの情熱など存在していない。
つづく
「覆面くん、Mと付き合ってるのか?まあ、付き合ってても構わないが……」
Mとの関係は単純だった。二度金を払って抱き、偶然駅前で何気ない会話を交わしただけ。そんな関係だから、彼女のメアドや電話番号はもちろん、本名すら知らない。知っているのは源氏名のM。但し、少しだけ事情が複雑なのは彼女の住まいを知っていた。兄貴の店の送迎車に乗って遊んでいるとそのまま仕事がハネたMを自宅まで送っていくことが何度かあった。だが、それ以上のことは一切なかった。個人的に尋ねって行ったことももちろんない。
「いったいその付き合っているという噂、どこから出てんすか?」
「本人から」
思わず仰け反りそうになる。
信じられない。変に誤解をされても困るので彼女と駅で話したのは兄貴にも報告済み。M自身がそんな噂を広めているとは……。
キャバクラや風俗の世界には女の子にやさしくされた男がこじらせて、◯◯ちゃんは僕の彼女なんだと勘違いする男がいる。残念ながらこの手合いは単なる金づる、カモでしかない。
しかし、Mの場合は逆だった。俺が金づるとは程遠く二度しか買っていない。指名客のなかには月に何度も来ていた人もいるだろう、そっちの方が俺の何倍も金づるだ。
考えれば考えるほど納得がいかない。俺が知らないところで俺はいったい誰と付き合っているというのだ。
しかし、実際のところ、俺はあまり気にならなかった。それどころか彼女ほどの美女に彼氏だと思われるのは、正直、悪い気がしない。むしろ誇らしくもある。ただ、絶対に一線を越えることはしないつもりだった。それは、Mとの関係を本当に進展させること。
先に情を交わしながら一線を超えるとは片腹痛いが情交はきっかけのひとつであり、目的ではない。一見生々しく不純な交際に見えるが一般的な恋愛と大差はない。俺たちはそういう不埒な世界で生きていると思えば不純どころか健全にすら思える。この歪んだ価値観は一種の職業病かもしれない。
兄貴に頭を下げれば兄貴の性格からして笑ってMとの交際も認めてもらえるだろうが、女絡みで自分を見失い、大切なものを失うのは不本意だ。兄貴と俺、互いの心にしこりを残したくない。
そもそもMが吹聴しているのも別に俺に気があるわけではなく、単なるかまってちゃんのネタとしていっているのかも知れない。単に使い勝手のいい男だから名前を出しているだけというのも十分あり得る話だ。
何ゆえ、ネタにしているのか皆目見当もつかないが、また抱きたくなったら金を払って買うだけの関係でいいと思っていた。抱きたくならなければそれでおしまい。
好きか嫌いかの二択でいえば、確かに好きには違いないが、それも二択で迫られたから「好き」と書かれたカードを選んだに過ぎない、恋愛感情とは少しどころか、かなり違う。
寝ても覚めてもMのことばかりを考えているのが恋というのならもはや遠いところにいる。
いまとなっては初めて兄貴に頭を下げて買わせてくれと頼み込んだときの情熱など存在していない。
つづく