R子の夢を見た その2
- 2023/10/18
- 11:00
後日、R子の家の近くのコンビニの駐車場で待ち合わせた。その場所は水戸から30kmも離れた、西の方の閑静な町。高速道路を疾走し、その地点まで辿り着いた。俺に落ち度はないと確信していたが、それでも謝罪の言葉を口にした。彼女は黙って、何も言わずにDVDを受け取った。お互い、それ以上の言葉を交わすことなく、その場を去った。
しかし、帰り道、深い闇の中を走る途中で、考え事に没頭してしまった。彼女は確かに統合失調症の症状を患っている。言動がおかしい。もしかすると覚醒剤を使用している可能性すらある。そんな不安定な存在を雇い続けるべきではないと思った。
今回の件で、ドライバーに非はあったかもしれないが、そのトラブル、彼女自身に1ミリも落ち度がなかったかといえばさすがにそれはない。厳しい言い方をすればいくら懇願されても好きでもない男とディズニーランドに行くべきではなかったのだ。二人っきりで行った以上、結局未遂に終わったとはいえ、ラブホテルに連れ込こんだドライバーにも幾ばくかの酌量の余地はある。
この先、他のキャストや客とのトラブルも考えなくてはなるまい。事が起こる前に、彼女を解雇しなければならない。特に客とのトラブルは違法フーゾクの場合、ご法度だ。腹いせで警察にかけ込まれるのがなにより怖い。
だが、辞めてもらうには何かしらの大義名分が必要だ、落ち度はないと言い張る人間をクビにするには相応の理由がないとまたここでトラブルが発生する。
とはいえ、相手は統合失調症患者か、ドラッグで頭がイカレているかのどちらかだ、キチガイに刃物で、扱い方を誤るとこちらが大けがをする。
そうだ、あの不遜なメールを口実にすればいいとひらめく。
「お前を絶対に許さない。私のバックには山口組の若頭と住吉会の会長がいる」
R子に数日後、メールを打つ。「理由はどうであれ、俺はこの店のオーナーだ、そのオーナーに向かってお前呼ばわりをする人をこれ以上雇うことは出来ない、ましてや暴力団組織の名前を出して脅すような人を置いておくことはできない」とメールを打った。
当然ながらR子はキレた。ここまでは想定内だ。はじめから一筋縄でいくとは思っていない。
「あなたに対して俺は頭をさげた。俺自身、あなたになにもやましいことはしていないが責任者として頭をさげました。今度はあなたが責任を取る番です。大人が吐いた言葉はたとえメールであっても重いのです。俺のいないところで陰口をいうのであればまだしもあなたは直接お前といった。こういう人はウチの店では雇えません」と送信した。
「それはおかしい」と何度かメールが来たがすべて「お前」を拠り所にして突っぱねた。
だが、いつなんどきR子が火を噴くか分からない。だから、逃げ道を残しておく必要がある、「俺も立場があるのでわかってくれないか、他のスタッフや女の子たちに示しがつかない。分かって欲しい。R子ちゃんがつかんだお客さんは新しいお店に移るのであれば連れて行って構わない。新しいお店で心機一転また頑張りな。こうなってしまって俺も悲しいですけど陰ながら応援しています。体に気をつけて頑張ってください」と返信した。
正直、悲しくもないし、陰ながら応援もしていない。あるのはこのヤクネタが早くいなくなれのただ一点。だが、嘘も方便、わざわざ禍根を残す必要はない。俺の店では客との連絡先交換はOKであったのでどれだけ掴んだ客がいるかは分からないが全員連れていってもらって構わないと、R子を立ててやった。昔から窮鼠猫を噛むという、くれぐれも追い込み過ぎてはいけない。
「気を使ってくれてありがとうございます。オーナーのお心遣いキッチリと受け止めました。色々ともめてしまったが、これにてケリをつけさせていただきます。オーナーも体に気をつけて、しっかりやってくださいよ」
東映のヤクザ映画にでも憧れているのか。
「最後のメールだって、まるでヤクザ映画のラストシーンみたいだったな……」
しかし、それも今は昔。彼女との縁は、あの日を境に完全に断たれた。統合失調症患者の中には、一度切れた縁を何度も引きずり出す者もいる。だがR子は違った。彼女との接触は、あの日を最後に一切なかった。そのぐらいの希薄な関係であるから夢を見ても肝心の顔が思い出せない。細身で綺麗な子であったのは確かだがやはり思い出せない。別に思い出す必要もないが。
だが、トラブルはこれで終わりではなかったのだ。
続く
しかし、帰り道、深い闇の中を走る途中で、考え事に没頭してしまった。彼女は確かに統合失調症の症状を患っている。言動がおかしい。もしかすると覚醒剤を使用している可能性すらある。そんな不安定な存在を雇い続けるべきではないと思った。
今回の件で、ドライバーに非はあったかもしれないが、そのトラブル、彼女自身に1ミリも落ち度がなかったかといえばさすがにそれはない。厳しい言い方をすればいくら懇願されても好きでもない男とディズニーランドに行くべきではなかったのだ。二人っきりで行った以上、結局未遂に終わったとはいえ、ラブホテルに連れ込こんだドライバーにも幾ばくかの酌量の余地はある。
この先、他のキャストや客とのトラブルも考えなくてはなるまい。事が起こる前に、彼女を解雇しなければならない。特に客とのトラブルは違法フーゾクの場合、ご法度だ。腹いせで警察にかけ込まれるのがなにより怖い。
だが、辞めてもらうには何かしらの大義名分が必要だ、落ち度はないと言い張る人間をクビにするには相応の理由がないとまたここでトラブルが発生する。
とはいえ、相手は統合失調症患者か、ドラッグで頭がイカレているかのどちらかだ、キチガイに刃物で、扱い方を誤るとこちらが大けがをする。
そうだ、あの不遜なメールを口実にすればいいとひらめく。
「お前を絶対に許さない。私のバックには山口組の若頭と住吉会の会長がいる」
R子に数日後、メールを打つ。「理由はどうであれ、俺はこの店のオーナーだ、そのオーナーに向かってお前呼ばわりをする人をこれ以上雇うことは出来ない、ましてや暴力団組織の名前を出して脅すような人を置いておくことはできない」とメールを打った。
当然ながらR子はキレた。ここまでは想定内だ。はじめから一筋縄でいくとは思っていない。
「あなたに対して俺は頭をさげた。俺自身、あなたになにもやましいことはしていないが責任者として頭をさげました。今度はあなたが責任を取る番です。大人が吐いた言葉はたとえメールであっても重いのです。俺のいないところで陰口をいうのであればまだしもあなたは直接お前といった。こういう人はウチの店では雇えません」と送信した。
「それはおかしい」と何度かメールが来たがすべて「お前」を拠り所にして突っぱねた。
だが、いつなんどきR子が火を噴くか分からない。だから、逃げ道を残しておく必要がある、「俺も立場があるのでわかってくれないか、他のスタッフや女の子たちに示しがつかない。分かって欲しい。R子ちゃんがつかんだお客さんは新しいお店に移るのであれば連れて行って構わない。新しいお店で心機一転また頑張りな。こうなってしまって俺も悲しいですけど陰ながら応援しています。体に気をつけて頑張ってください」と返信した。
正直、悲しくもないし、陰ながら応援もしていない。あるのはこのヤクネタが早くいなくなれのただ一点。だが、嘘も方便、わざわざ禍根を残す必要はない。俺の店では客との連絡先交換はOKであったのでどれだけ掴んだ客がいるかは分からないが全員連れていってもらって構わないと、R子を立ててやった。昔から窮鼠猫を噛むという、くれぐれも追い込み過ぎてはいけない。
「気を使ってくれてありがとうございます。オーナーのお心遣いキッチリと受け止めました。色々ともめてしまったが、これにてケリをつけさせていただきます。オーナーも体に気をつけて、しっかりやってくださいよ」
東映のヤクザ映画にでも憧れているのか。
「最後のメールだって、まるでヤクザ映画のラストシーンみたいだったな……」
しかし、それも今は昔。彼女との縁は、あの日を境に完全に断たれた。統合失調症患者の中には、一度切れた縁を何度も引きずり出す者もいる。だがR子は違った。彼女との接触は、あの日を最後に一切なかった。そのぐらいの希薄な関係であるから夢を見ても肝心の顔が思い出せない。細身で綺麗な子であったのは確かだがやはり思い出せない。別に思い出す必要もないが。
だが、トラブルはこれで終わりではなかったのだ。
続く