失恋
- 2023/09/22
- 12:00
おふくろには小学校時代からの大親友にTさんという方がいた。
過去形であるのは2年前、癌を患い惜しくも鬼籍に入られたからだ。そのときのおふくろの落ち込みようといったら見ているこちらがつらくなるほどであった。コロナ禍でもあり、入院先の病院での面会が出来ず、やっと会えたのは斎場の棺のなかだ。当時は葬儀も親族のみと制限されており、斎場のスタッフに無理をいって時間を貰い特別に会わせてもらった。
そのTさんには一人娘がいる。おふくろは殊の外この娘さんを気にかけ、Tさんの死後も野菜や米などを持っていったりしていた。
また、気が利くお嬢さんらしく彼女もまた美味しい餃子を見つけたので買ってきたよといってはよく実家に遊びに来ていた。
彼女は出戻りだそうだ。前夫とどんないきさつがあったかは知らないが今はお父さんと一緒に暮らしている。
その彼女、年齢は45歳なのだが、背がすらっとして高くモデルさん並みの美貌なのだそうだ。本人がどう思うかはさておきあの上原多香子似らしい。女性の容姿にはとかく厳しいウチの親父までが、「ありゃあ美人だわ」と鼻の下を伸ばしてニコニコしている。
かくいう俺は彼女がよちよち歩きしている頃、つまり1、2歳の頃、一、二度会っただけで、成人になってからはどういうわけかいつもすれ違いで会ったことがない。
俺はお互いバツイチ同士、おふくろとの仲も良好、親父も気に入っている、そして何よりも美形、彼女となら付き合ってもいいなと、勝手にそう思っていた。むしろ仕方がねぇな、俺が嫁に貰ってやるかと決めつけていた。
先日彼女が実家に遊びに来たらしい。
「おばさん、私も彼氏が出来ました」
律儀なのか、それとも報告したくて仕方なかったのか分からぬが彼氏が出来たのをわざわざウチの実家まで報告しに来たのだ。
昨日実家に帰ったとき、おふくろにそういわれた。おふくろはあの子にも彼氏が出来て良かったよ、今度は幸せになってもらいたいねぇとまるで姪っ子の幸せを願うように目を細めている。
「………、ああ良かったな」
俺のひと夏の恋は終わった。顔も知らない相手に一方的にフラれた。今年は秋がくるのかな。ここ暫くは夏が終わると一気に冷え込んで冬になる。今年の秋はいつになくセンチメンタルな秋になりそうだ。
過去形であるのは2年前、癌を患い惜しくも鬼籍に入られたからだ。そのときのおふくろの落ち込みようといったら見ているこちらがつらくなるほどであった。コロナ禍でもあり、入院先の病院での面会が出来ず、やっと会えたのは斎場の棺のなかだ。当時は葬儀も親族のみと制限されており、斎場のスタッフに無理をいって時間を貰い特別に会わせてもらった。
そのTさんには一人娘がいる。おふくろは殊の外この娘さんを気にかけ、Tさんの死後も野菜や米などを持っていったりしていた。
また、気が利くお嬢さんらしく彼女もまた美味しい餃子を見つけたので買ってきたよといってはよく実家に遊びに来ていた。
彼女は出戻りだそうだ。前夫とどんないきさつがあったかは知らないが今はお父さんと一緒に暮らしている。
その彼女、年齢は45歳なのだが、背がすらっとして高くモデルさん並みの美貌なのだそうだ。本人がどう思うかはさておきあの上原多香子似らしい。女性の容姿にはとかく厳しいウチの親父までが、「ありゃあ美人だわ」と鼻の下を伸ばしてニコニコしている。
かくいう俺は彼女がよちよち歩きしている頃、つまり1、2歳の頃、一、二度会っただけで、成人になってからはどういうわけかいつもすれ違いで会ったことがない。
俺はお互いバツイチ同士、おふくろとの仲も良好、親父も気に入っている、そして何よりも美形、彼女となら付き合ってもいいなと、勝手にそう思っていた。むしろ仕方がねぇな、俺が嫁に貰ってやるかと決めつけていた。
先日彼女が実家に遊びに来たらしい。
「おばさん、私も彼氏が出来ました」
律儀なのか、それとも報告したくて仕方なかったのか分からぬが彼氏が出来たのをわざわざウチの実家まで報告しに来たのだ。
昨日実家に帰ったとき、おふくろにそういわれた。おふくろはあの子にも彼氏が出来て良かったよ、今度は幸せになってもらいたいねぇとまるで姪っ子の幸せを願うように目を細めている。
「………、ああ良かったな」
俺のひと夏の恋は終わった。顔も知らない相手に一方的にフラれた。今年は秋がくるのかな。ここ暫くは夏が終わると一気に冷え込んで冬になる。今年の秋はいつになくセンチメンタルな秋になりそうだ。