リハビリを兼ねて
- 2023/09/06
- 13:32
ボチボチ仕事復帰しているが、未だ本調子ではない。昨日はリハビリを兼ねて裁判の傍聴に出向く。いったいなんのリハビリだよという話だが。特に目当ての公判はなし、完全なる行き当たりばったり。14時頃水戸地裁に到着。公判予定が貼ってあるボードを見る。午後からの裁判は15時30分からの窃盗事件の審理1件のみだ。必然的にこれになる。
被告の名前は星加奈子(仮名)、女の窃盗犯とは面白い、しかも審理の時間が15時30分から17時までと1時間30分。一般的に万引きを含む窃盗や覚せい剤の使用(営利目的は別)、傷害、風営法違反などしょーもない事件の場合、審理は通常1時間。俺の時の裁判も1時間のみ。罪を認めていたのでなんら揉めることもなく次回判決で結審した。つまり、1時間30分の長きに渡って審理されるというのは当然しでかした窃盗事件が相応に大きかったといえる。これは楽しみだ。マックでお茶を飲み時間を潰し、1時間後また裁判所に来るとしよう。
予定通り、1時間後、裁判所に戻ってきた。
法廷に入ると傍聴人は俺を入れて3名。1人は俺と同じく暇つぶしと思われるおっさん、もう一人は品のいい六十代と思しきマダム。暇つぶしのおっさんはともかく、このマダムは被告人の母親で情状証人だろうか、それとも窃盗にあった被害者か、まあ、公判が始まれば分かるだろう。
開廷時間5分前になっても被告人は現れない。
通常、被告人は裁判官より先に入廷している。保釈がされていなければ拘置所の刑務官、若しくは警察署から場合は留置管理課の警察官に手錠を掛けられ、腰ひもをつけられ、通称猿回しといわれる姿で被告人専用の待機所から入廷する。
拘置所から出廷する場合と警察署の留置場から出廷する場合との違いは原則起訴されると拘置所に移管になるが拘置所の収容人数が一杯であると警察署の留置場にそのまま留め置かれ、こうして移管前に裁判期日を迎えてしまうと警察署から出廷することになる。
一般的に拘置所より警察署の留置場の方が規則もゆるくダラダラ過ごせて楽なため、被告人の立場としては拘置所に移管されず、出来るだけ警察署の留置場にいたい。なお、留置場から拘置所への移管も必ずしも起訴された順に移管されるわけでもない。
留置場で大声で喋ったり笑う、留置管理課の警察官に反抗的な態度を取るなど、迷惑的な行為をすると留置管理課の判断で本来送られるはずの立場の人よりも先送りさせられてしまう。拘置所への移管はある程度、留置管理課の裁量による。もっとも東京など被疑者の数が多いところは起訴されたものから順に移管されてしまうらしい。
被告人の入廷に戻す。裁判官が入廷すると手錠を外し、腰ひもを解くよう指示される。この時が実は裁判の見どころの一つだ。前半のクライマックスといっていい。
初めて裁判を受けるとき、一般的に情状証人として親族が呼ばれる。個人的には情状証人の有り無しがこの手のしょーもない事件に与える影響など正直皆無に等しいのではないかと思っている。情状証人がいるから執行猶予判決、いないから実刑判決とはならないと思う。とはいえ、やはり被告人の側としては出来得る手はすべて打ちたいので情状証人を立てるのが常であるが。
ちなみに情状証人とは被告人が社会復帰したときに保護監督を約束する立場の人間、普通は親などの親族、若しくは中小企業の社長が「こいつを私の会社で働かし、被害者への弁済を含め、キッチリ更生させます」と述べたりする。この情状証人も宣誓書を手渡され、「良心に従って真実を述べ、何事も隠さず、偽りを述べない旨を誓います」と述べさせられ、まあ実際はそんなことはないだろうが裁判官に嘘をいうとあなた自身が偽証罪に問われる場合もあるから注意するようにとくぎを刺される。
この手錠を掛けられた息子や亭主を見ると、親族はもう情けなくてそれだけで涙がボロボロだ。また、被害者が傍聴人にいる場合、怒り心頭、真っ赤な顔をして打ち震えている。膝の上に乗せられている手はもちろんグーだ。
今回の裁判の話であるが、被告人が現れぬまま裁判官が入ってきてしまった。俺と同じコロナにでもなったか。それともなにか交通トラブルに巻き込まれて出廷が遅れているのだろうか。
「第三回目の公判を始めます」、裁判官が開廷を宣言する。窃盗で第三回目の公判、いったいコイツはどれだけのものを盗んだのか。そして次の瞬間、衝撃的な言葉を裁判官から聞くことになる。
「弁護人より、被告人が亡くなったと聞き及んでいますが、弁護人、被告人死亡でお間違いないですか」
「はい、間違いありません」
なんと、被告人は死んでしまったのだ。死因は語られず、病死なのか、事故死なのか、自殺なのか、不明。突発的な心筋梗塞や脳梗塞でもない限り、突然死は考えにくい。癌などの終末期医療であればそもそも公判の予定すらないだろう。事故死も可能性としてはなくもないが、可能性は低いように思う。個人的には自殺だと思う。被告の年齢がいくつなのか分からないが、3回も公判を開かれるというのは相当な額のものを、しかも複数回盗んだからだ。色々考えてこの先の人生に絶望をしてしまったのかもしれない。或いは亭主や子供になじられ、居場所がなくなったのか。恐らくこの被告人は保釈されていたはず、何故なら拘置所や警察の留置場で自殺や病死があれば新聞紙上に載るが、そんな記事はここ暫く見ていない。
「検察官、被告人死亡ということで今後の裁判日程は改めて協議することでよろしいでしょうか」
「はい、結構です」
「これにて閉廷します」
この間ものの2分。いったいなんのためにマックで時間潰していたのか。傍聴人のマダムも呆気にとられポカーンとしとるぞ。まったくリハビリにはならなかった。
被告の名前は星加奈子(仮名)、女の窃盗犯とは面白い、しかも審理の時間が15時30分から17時までと1時間30分。一般的に万引きを含む窃盗や覚せい剤の使用(営利目的は別)、傷害、風営法違反などしょーもない事件の場合、審理は通常1時間。俺の時の裁判も1時間のみ。罪を認めていたのでなんら揉めることもなく次回判決で結審した。つまり、1時間30分の長きに渡って審理されるというのは当然しでかした窃盗事件が相応に大きかったといえる。これは楽しみだ。マックでお茶を飲み時間を潰し、1時間後また裁判所に来るとしよう。
予定通り、1時間後、裁判所に戻ってきた。
法廷に入ると傍聴人は俺を入れて3名。1人は俺と同じく暇つぶしと思われるおっさん、もう一人は品のいい六十代と思しきマダム。暇つぶしのおっさんはともかく、このマダムは被告人の母親で情状証人だろうか、それとも窃盗にあった被害者か、まあ、公判が始まれば分かるだろう。
開廷時間5分前になっても被告人は現れない。
通常、被告人は裁判官より先に入廷している。保釈がされていなければ拘置所の刑務官、若しくは警察署から場合は留置管理課の警察官に手錠を掛けられ、腰ひもをつけられ、通称猿回しといわれる姿で被告人専用の待機所から入廷する。
拘置所から出廷する場合と警察署の留置場から出廷する場合との違いは原則起訴されると拘置所に移管になるが拘置所の収容人数が一杯であると警察署の留置場にそのまま留め置かれ、こうして移管前に裁判期日を迎えてしまうと警察署から出廷することになる。
一般的に拘置所より警察署の留置場の方が規則もゆるくダラダラ過ごせて楽なため、被告人の立場としては拘置所に移管されず、出来るだけ警察署の留置場にいたい。なお、留置場から拘置所への移管も必ずしも起訴された順に移管されるわけでもない。
留置場で大声で喋ったり笑う、留置管理課の警察官に反抗的な態度を取るなど、迷惑的な行為をすると留置管理課の判断で本来送られるはずの立場の人よりも先送りさせられてしまう。拘置所への移管はある程度、留置管理課の裁量による。もっとも東京など被疑者の数が多いところは起訴されたものから順に移管されてしまうらしい。
被告人の入廷に戻す。裁判官が入廷すると手錠を外し、腰ひもを解くよう指示される。この時が実は裁判の見どころの一つだ。前半のクライマックスといっていい。
初めて裁判を受けるとき、一般的に情状証人として親族が呼ばれる。個人的には情状証人の有り無しがこの手のしょーもない事件に与える影響など正直皆無に等しいのではないかと思っている。情状証人がいるから執行猶予判決、いないから実刑判決とはならないと思う。とはいえ、やはり被告人の側としては出来得る手はすべて打ちたいので情状証人を立てるのが常であるが。
ちなみに情状証人とは被告人が社会復帰したときに保護監督を約束する立場の人間、普通は親などの親族、若しくは中小企業の社長が「こいつを私の会社で働かし、被害者への弁済を含め、キッチリ更生させます」と述べたりする。この情状証人も宣誓書を手渡され、「良心に従って真実を述べ、何事も隠さず、偽りを述べない旨を誓います」と述べさせられ、まあ実際はそんなことはないだろうが裁判官に嘘をいうとあなた自身が偽証罪に問われる場合もあるから注意するようにとくぎを刺される。
この手錠を掛けられた息子や亭主を見ると、親族はもう情けなくてそれだけで涙がボロボロだ。また、被害者が傍聴人にいる場合、怒り心頭、真っ赤な顔をして打ち震えている。膝の上に乗せられている手はもちろんグーだ。
今回の裁判の話であるが、被告人が現れぬまま裁判官が入ってきてしまった。俺と同じコロナにでもなったか。それともなにか交通トラブルに巻き込まれて出廷が遅れているのだろうか。
「第三回目の公判を始めます」、裁判官が開廷を宣言する。窃盗で第三回目の公判、いったいコイツはどれだけのものを盗んだのか。そして次の瞬間、衝撃的な言葉を裁判官から聞くことになる。
「弁護人より、被告人が亡くなったと聞き及んでいますが、弁護人、被告人死亡でお間違いないですか」
「はい、間違いありません」
なんと、被告人は死んでしまったのだ。死因は語られず、病死なのか、事故死なのか、自殺なのか、不明。突発的な心筋梗塞や脳梗塞でもない限り、突然死は考えにくい。癌などの終末期医療であればそもそも公判の予定すらないだろう。事故死も可能性としてはなくもないが、可能性は低いように思う。個人的には自殺だと思う。被告の年齢がいくつなのか分からないが、3回も公判を開かれるというのは相当な額のものを、しかも複数回盗んだからだ。色々考えてこの先の人生に絶望をしてしまったのかもしれない。或いは亭主や子供になじられ、居場所がなくなったのか。恐らくこの被告人は保釈されていたはず、何故なら拘置所や警察の留置場で自殺や病死があれば新聞紙上に載るが、そんな記事はここ暫く見ていない。
「検察官、被告人死亡ということで今後の裁判日程は改めて協議することでよろしいでしょうか」
「はい、結構です」
「これにて閉廷します」
この間ものの2分。いったいなんのためにマックで時間潰していたのか。傍聴人のマダムも呆気にとられポカーンとしとるぞ。まったくリハビリにはならなかった。