覆面の北枕

高血圧と高尿酸血症（いわゆる痛風）の薬を処方してもらうため、ふた月に一度かかりつけ医を訪れる。

ふと思った、ここに通うようになって10年以上経つがいったいどういう経緯でここのクリニックを選んだのかまったく覚えていない。前に住んでいたボロアパートの近くであるから恐らく居住エリアを基準に内科医院を探したのだと思うが、ここより近い内科医院はまだ他にもある。ボロアパートからここまで2km以上あるが、わざわざここまで来なくともボロアパートの徒歩圏内に複数の内科医院がある。なぜ近い内科医院をすっ飛ばしてここを選んだのか、完全に記憶がない。

そもそも上が200以上もあれば別だが、俺が患ってる中程度の高血圧症（薬を飲まないと上が160、飲んでいると135ぐらい）であると自覚症状がないため、自ら自発的に診察を受けようとは思わないはず。高尿酸血症は別の整形外科に通っていた。その整形外科からの紹介でもない。

思い出しようにも手掛かりがなさ過ぎて完全に手詰まりだ。すべて自分自身の話でありながらまったく知らない。取調室で強面の刑事にどうしてお前はここの内科に通っているんだと凄まれても本当に忘れてしまって知らないから答えようがない。なんで刑事にこの内科医院を選んだ経緯を凄まれるのかも知らんが。

だからこそ、隣の席に座る男性の小指がなくても、両腕両脚に入れ墨がべったりであっても、加護ちゃんが彼を暴力団関係者だとは知らなかったのもきっとこういうことなのだと思う。

かなり無理な設定ではある。