乾杯
- 2023/08/05
- 19:33
8月2日は兄貴分の命日だ。
墓参りに出掛けた。去年まではなんでこんなに早く居なくなってしまったんだと怒りに近い悲しみしかなかったが、今年は少し気持ちが違った。兄貴の墓は山に囲まれた場所にあり、墓地も山の中腹にある。駐車場は山のふもと、そこから徒歩で急な坂道を歩いていくしかないが、墓に着いてふと思い出した。
そういや、いつだったか、「俺は圧倒的に海派ですが、兄貴は海が好きですか、山が好きですか」と兄貴に尋ねたことがあったな。あの時、兄貴は迷うことなく山といっていた。
旧北浦村で生まれ育ち、霞ヶ浦(北浦)のほとりの野山を駆け回ったのが兄貴の原風景としてあるのだろうと思った。
ここは霞ヶ浦とは遠く離れているが山に囲まれ、山派の兄貴にはぴったりの場所なんじゃないか、そう思える心の余裕があった。
墓に着いたのは仕事の関係で夕方五時過ぎ。まだ8月頭だというのにヒグラシが物憂げな声でカナカナカナと鳴いている。もしかすると去年もヒグラシは鳴いていたのかもしれないが鳴き声に気付く余裕がなかった。たった数十センチ下の地面に兄貴の骨が埋葬されている。同じ場所に立っているにも関わらず、その数十センチの距離が果てしなく遠くに感じられ、どうしてこうなってしまったのかと毎回打ちひしがれていた。
だが、今回は違った。裾野に広がるのどかな田園風景を見て、ここなら安心して眠れるだろうと妙な安堵感を覚えた。
なぜここまで穏やかな気持ちになれたのか理由は自分でも分からない。時間がそうさせたのであればそれはそれで無常であるような気がしなくもないし、だからといって、いつまでも同じ気持ちで立ち止まっているのが果たして正しいかといえばそれも違うだろうなと思うもまた事実である。
たまたま今年は穏やか気持ちであったが来年、或いは再来年、また悲しく沈んでいるかもしれない。
深くは考えまい。
帰宅後、山椒の居酒屋に出掛けた。
「おう、マスター、日本酒のおちょこ二つ頂戴」
「誰か来るのか?」
「いや、今日兄貴分の命日なんだよ、今、墓参りから帰って来たところ。気持ちだけでも酒飲ませやろうと思ってさ」
「そういうところが覆面くんのいいところだよな、なかなか真似しようと思っても出来ねぇわ」
珍しくマスターに褒められた。少し嬉しくなった。
乾杯。酒を酌み交わした。
墓参りに出掛けた。去年まではなんでこんなに早く居なくなってしまったんだと怒りに近い悲しみしかなかったが、今年は少し気持ちが違った。兄貴の墓は山に囲まれた場所にあり、墓地も山の中腹にある。駐車場は山のふもと、そこから徒歩で急な坂道を歩いていくしかないが、墓に着いてふと思い出した。
そういや、いつだったか、「俺は圧倒的に海派ですが、兄貴は海が好きですか、山が好きですか」と兄貴に尋ねたことがあったな。あの時、兄貴は迷うことなく山といっていた。
旧北浦村で生まれ育ち、霞ヶ浦(北浦)のほとりの野山を駆け回ったのが兄貴の原風景としてあるのだろうと思った。
ここは霞ヶ浦とは遠く離れているが山に囲まれ、山派の兄貴にはぴったりの場所なんじゃないか、そう思える心の余裕があった。
墓に着いたのは仕事の関係で夕方五時過ぎ。まだ8月頭だというのにヒグラシが物憂げな声でカナカナカナと鳴いている。もしかすると去年もヒグラシは鳴いていたのかもしれないが鳴き声に気付く余裕がなかった。たった数十センチ下の地面に兄貴の骨が埋葬されている。同じ場所に立っているにも関わらず、その数十センチの距離が果てしなく遠くに感じられ、どうしてこうなってしまったのかと毎回打ちひしがれていた。
だが、今回は違った。裾野に広がるのどかな田園風景を見て、ここなら安心して眠れるだろうと妙な安堵感を覚えた。
なぜここまで穏やかな気持ちになれたのか理由は自分でも分からない。時間がそうさせたのであればそれはそれで無常であるような気がしなくもないし、だからといって、いつまでも同じ気持ちで立ち止まっているのが果たして正しいかといえばそれも違うだろうなと思うもまた事実である。
たまたま今年は穏やか気持ちであったが来年、或いは再来年、また悲しく沈んでいるかもしれない。
深くは考えまい。
帰宅後、山椒の居酒屋に出掛けた。
「おう、マスター、日本酒のおちょこ二つ頂戴」
「誰か来るのか?」
「いや、今日兄貴分の命日なんだよ、今、墓参りから帰って来たところ。気持ちだけでも酒飲ませやろうと思ってさ」
「そういうところが覆面くんのいいところだよな、なかなか真似しようと思っても出来ねぇわ」
珍しくマスターに褒められた。少し嬉しくなった。
乾杯。酒を酌み交わした。