ドキドキした
- 2023/02/23
- 18:40
家の近くにグリル系の定食屋がある。今年になってから通い始めた。店名が特徴的な店だ。もしかするとひたちなか界隈にお住まいの方はピンときたもしれない。そう、そこ、恐らくそこで合っている。この店に通い始めた理由はそれなりに美味くて、店内がいつ行っても空いているから。行列ができるような店は嫌い、飯などそこそこ美味ければそれでよい。
先日夕飯を食べに行くと、先客は二人。三十代前半とおぼしきカップル、夫婦か恋人か、はたまた不倫かは分からない。彼らは既に料理を食べている。
俺は反対側の席に座り、メニュー表を見てチキングリルとハンバーグのセットを注文する。
カップルの男の方がおもむろに席を立つと厨房の方へ向かった。カウンター席の奥が厨房になっている。この店は70歳ぐらいのおばさんが一人で切り盛りしている。わざわざおばさんを呼ぶのは俺が注文した料理を作っているので悪いと思ったのだろう。
「すいません、ライスお代わりください」
ほどなくライスが運ばれてきた。
「食べすぎじゃない?」
「えっ、は、はい?」
「だから食べ過ぎじゃないのって、食べ過ぎ、食べ過ぎよ」
俺を含め、その場にいた全員が面食らった。ご飯のお代わりを注文して、店の人間に食べすぎだよと注意される、50年生きてきたが初めてだ。百歩譲ってこれがお酒ならまだわかる、飲み過ぎたお客におかみさんが、「もう、おしまい、それ以上飲んだら体壊すからダメよ」と一喝、絵づらとしては想像できなくもない。
しかし、親族や妻でもない、単なる店の人が白米の食べすぎを客に注意するとはまさか夢にも思わなかった。しかも、メニュー表には「ライスお代わり百円」と書いてあるのにも関わらずだ。
「いいんですよ、俺は肉体労働で昼間、体動かしてんですから」
「いや~、でも食べすぎじゃないの?」
「体動かして腹減ってるんですからいいじゃないですか」
「でも……」
「余計なお世話だ、ババア」と、彼がテーブルをひっくり返して暴れ出すのではないかと思い、見ているこちらが内心冷や冷やだ。心穏やかにはいられない。ドキドキする。彼が暴れ出したらまったく無関係ながらここはやはり俺が止めねばなるまい。こんなことで怪我をしたり、警察沙汰になるのは嫌だなと思いつつも、行きがかり上、致し方あるまいと腹を括る。
それにしてもだ、ふつうに食事をしにきただけなのに、この修羅場、心がはち切れそうに痛い。欲しいのはコンビニ弁当よりもちょっとだけうまい食事、それなのに目の前にあるのは冷めたスープよりもまずい、カミソリのような緊張感。そんなものは望んでいない。ピーンと張り詰めた空気、口がカラカラに乾く。
「じゃあ、はい、これね」、おばさんはライスをテーブルに置くとまた厨房に戻って行った。
彼は彼女(奥さん?)に、「お代わりしただけでなんでこんなこと言われなきゃならないんだ」とブツブツいっている。気持ちはわかる。客観的、公平的に見て、彼に落ち度はなにもない。彼女はクスクス笑っていた。もし俺が彼の立場なら確実にプッツンキレている。彼は人間が出来ている。
二人は食事を済ますと、男は憤りながら店を出ていった。お会計は彼女が支払った。
「食べ過ぎだと思って……」
おばさんはまだいっている。彼女もさすがに困惑している。
なんにせよ、何事もなくてよかった。ほっと胸を撫で下ろす。
俺も食べ終えた、会計をする。
「味濃くなかった?甘いタレが嫌ならいってね」
食い終わってからいうな、ババア。
>>匿名さん
コメントありがとうございます。文章を書くのが好きなので少し勉強しようと思ってます。
先日夕飯を食べに行くと、先客は二人。三十代前半とおぼしきカップル、夫婦か恋人か、はたまた不倫かは分からない。彼らは既に料理を食べている。
俺は反対側の席に座り、メニュー表を見てチキングリルとハンバーグのセットを注文する。
カップルの男の方がおもむろに席を立つと厨房の方へ向かった。カウンター席の奥が厨房になっている。この店は70歳ぐらいのおばさんが一人で切り盛りしている。わざわざおばさんを呼ぶのは俺が注文した料理を作っているので悪いと思ったのだろう。
「すいません、ライスお代わりください」
ほどなくライスが運ばれてきた。
「食べすぎじゃない?」
「えっ、は、はい?」
「だから食べ過ぎじゃないのって、食べ過ぎ、食べ過ぎよ」
俺を含め、その場にいた全員が面食らった。ご飯のお代わりを注文して、店の人間に食べすぎだよと注意される、50年生きてきたが初めてだ。百歩譲ってこれがお酒ならまだわかる、飲み過ぎたお客におかみさんが、「もう、おしまい、それ以上飲んだら体壊すからダメよ」と一喝、絵づらとしては想像できなくもない。
しかし、親族や妻でもない、単なる店の人が白米の食べすぎを客に注意するとはまさか夢にも思わなかった。しかも、メニュー表には「ライスお代わり百円」と書いてあるのにも関わらずだ。
「いいんですよ、俺は肉体労働で昼間、体動かしてんですから」
「いや~、でも食べすぎじゃないの?」
「体動かして腹減ってるんですからいいじゃないですか」
「でも……」
「余計なお世話だ、ババア」と、彼がテーブルをひっくり返して暴れ出すのではないかと思い、見ているこちらが内心冷や冷やだ。心穏やかにはいられない。ドキドキする。彼が暴れ出したらまったく無関係ながらここはやはり俺が止めねばなるまい。こんなことで怪我をしたり、警察沙汰になるのは嫌だなと思いつつも、行きがかり上、致し方あるまいと腹を括る。
それにしてもだ、ふつうに食事をしにきただけなのに、この修羅場、心がはち切れそうに痛い。欲しいのはコンビニ弁当よりもちょっとだけうまい食事、それなのに目の前にあるのは冷めたスープよりもまずい、カミソリのような緊張感。そんなものは望んでいない。ピーンと張り詰めた空気、口がカラカラに乾く。
「じゃあ、はい、これね」、おばさんはライスをテーブルに置くとまた厨房に戻って行った。
彼は彼女(奥さん?)に、「お代わりしただけでなんでこんなこと言われなきゃならないんだ」とブツブツいっている。気持ちはわかる。客観的、公平的に見て、彼に落ち度はなにもない。彼女はクスクス笑っていた。もし俺が彼の立場なら確実にプッツンキレている。彼は人間が出来ている。
二人は食事を済ますと、男は憤りながら店を出ていった。お会計は彼女が支払った。
「食べ過ぎだと思って……」
おばさんはまだいっている。彼女もさすがに困惑している。
なんにせよ、何事もなくてよかった。ほっと胸を撫で下ろす。
俺も食べ終えた、会計をする。
「味濃くなかった?甘いタレが嫌ならいってね」
食い終わってからいうな、ババア。
>>匿名さん
コメントありがとうございます。文章を書くのが好きなので少し勉強しようと思ってます。