民度の帝王
- 2022/12/12
- 15:01
先日騒音の記事で民度の話をした。民度が低い人が近隣にいるとなにかと面倒である、異論はあるまい。
しかし、だからといって民度の低い人が嫌いかといえば必ずしもそんなことはない。実害を被らない範囲であればむしろ人畜無害の平凡なサラリーマンよりもよっぽど面白かったりする。
かつての仕事の先輩に増田修造(仮名、ほぼ実名)さんという方がいた。この人の民度の低さはけた違い、未だかつてこの人を超える民度の低い人に会ったことがない。色々あり過ぎてどこから書いていいのか迷うぐらいだ。
1.中華屋事件
あるとき、増田さんが近所にいい中華屋があり、ご馳走するから行こうということになった。いつも素寒貧の増田さんが珍しいこともあるものだと兄貴分のIさんと一緒に行ってみた。指定された場所に着くと思わず、のけ反りそうになり、俺はIさんと顔を見合わせた。
「これって単なるラーメン屋じゃないっすか……、自分、いい中華屋っていうからてっきり北京ダックとかフカヒレスープとかの本格的なのを想像してましたよ」
「ああ……」
中に入ると、先に来ていた増田さんが、こっちこっちと手招きをしている。とりあえず、ビールや餃子、炒飯、肉野菜炒めなどを頼み、相応に楽しい時間を過ごす。味はよく覚えていない、覚えていないのは恐らく取り立ててうまくもなければ不味くもなかったからだろう。会計は確か3人で6千円ぐらいだったと思う。たとえちんけなラーメン屋とはいえ、増田さんの招待だ、こちらは奢ってもらえるものと思っている。
「あ、あれ、財布がねぇ」、どうしたんですか、増田さん?
ズボンのポケットをまさぐっている。
完全にやられた。この瞬間、兄貴も俺も悟った、財布がねぇじゃなくてそもそも初めから金を持っていないのだ。ビールを飲みたいがために俺たちはダシに使われたのだ。
「Iくん、わりぃ、一旦立て替えておいて、すぐに返すから」、顔の前に右手を上げてすまんのポーズをしている。兄貴が6千円を出してその場は収まったが収まらないのはダシにされた俺たちの心だ。店を出るなり、「増田さん、今から増田さんのアパート行くべ、財布、家に忘れたんだろ、6千円返せよ」、まあ当然そうなるわな。だが、今日は都合が悪いとか、銀行が閉まってしまいキャッシュカードが使えない(当時はまだコンビニで金を下ろせず)などと、のらりくらり。兄貴も金がないのを分かって追い込んでいる。キレた兄貴に胸ぐらをつかまれたが、俺は知らんぷりをした。兄貴にぶん殴られても致し方ないと思った。結局、増田さんは平謝り、近いうちに返せよといって話を収めた。殴られず。
増田さんと別れ、兄貴と二人になる。
兄貴は、「増田さんってああいう人なんだよ、面白いだろう?」といって笑っていた。
2.二度と敷居をまたぐな事件
増田さんと急に連絡が取れなくなってしまった。兄貴をはじめ、数人が金を貸している(俺は貸していない)。もっとも金と言っても併せて10万円ぐらいの金、そこまでの大金ではない。携帯は止まり、家に行ってもいない。逃げた。過去の会話を思い出すと増田さんの実家は茨城県内の某市某町だったはず、電話帳で調べてみるとその町内に増田という名字は一件のみ。ここが実家だろうと思い、電話をすると兄嫁が電話に出た。
「私、修造さんの友達のものなんですが、修造さんと連絡が取れなくなってしまいこちらにご連絡したのですが、修造さんいらっしゃいますか?」(俺)
「なに、修造!?あのバカ、またなにかやったのか?」(兄嫁)
「いや、特になにというわけではなく、心配だったから電話しただけっす、ハハハ……」(俺)
「あのバカにはうち等夫婦がどれだけ迷惑かけられたことか、あたしの目の色が黒いうちは二度とうちの敷居を跨がせないよ」(兄嫁)
「………………」(俺)
ほうほうの体で俺は電話を切った。まったく関係のない俺が兄嫁にキレられた。
「俺、映画やドラマ以外で、目の色が黒いうちは二度とうちの敷居を跨がせないってセリフ、生まれて初めて聞きましたよ、しかも、肉親ならともかく兄嫁ですよ、なかなか兄嫁に呼び捨てにされた挙句、あのバカ呼ばわりされるってないですよねぇ」、さすがに兄貴もまいったなぁという渋い顔をしていた。増田さん、あんたいったいどれだけ実家に迷惑を掛けたんだよ、こっちが涙が出そうだ。
3.重箱のクソ事件
増田さんは学習教材の飛び込み営業をしていた。初対面の人と話すのも苦ではないため、飛び込み営業は向いていたのだろう。日曜日、農村部の家を訪問すると農家にありがちな引き戸タイプの玄関は開けっ放しだ、しかし、いくら、「こんにちは~」、「すいませーん」を繰り返しても誰もいない。すると玄関の上り口に重箱が置いてあったという。ちょうど腹が減っていた増田さん、重箱をかっぱらって逃げた。もう、このへんからして人として駄目だと思う。確かに田舎の方であると玄関は開けっ放しも珍しくない、勝手に入って野菜や土産物を置いていく人もいる。だが、それを持っていくか、ふつう?
いやー、儲けものしたと喜び勇み、河原で飯を食おうと重箱を開いたら、なんと中身は弁当ではなく、人糞がべったり、増田さん、においと見た目の衝撃に河原でへなへなと腰を抜かしたらしい。「いやー、そういうことってあるんだねぇ」と語っていたが、そもそも人んちの玄関に置いてあった重箱を盗む奴もなかなかいねぇよ。まあ、嫌がらせなのか、重箱に人糞を入れて置いておく、かなりエキセントリックなことではあるが……。
4.父親の葬式事件
父親が亡くなったので仕事を数日休ませてくださいという。イチイチ、新聞のお悔やみ欄を確認され、ああ本当だ、嘘じゃなかったんだと言われてしまうのがいかにも増田さんらしい。父親のお悔やみが事実である以上、我々は香典を包んだ。「ありがとよ、ありがとよ」といって涙を流さんばかりの増田さん、こういう人でも親が死んだら悲しいもんなんだな。
あれから暫く経つが一向に香典返しがない。
別に物が欲しいわけじゃないが、香典を受け取ったらお返しをするのが礼儀だろう。これはおかしいと思い、当時、増田さんと一緒につるんでいた軽い知的障害のあるサブという男に葬式のことを聞くと、「増田やん、葬式なんか行ってねーぞ、なんだか金があるといっておいらに酒ご馳走してくれたわ」、サブちゃんは随分ご機嫌だ。あの兄嫁が本当に敷居を跨がせてくれなかったのか、或いは本人が行きづらかったのか、それとも金が入ったことに浮かれてしまったのか、そこらへんは分からぬが父親の葬儀にも参列せず、みんなから集めた香典で酒盛りをしてしまった。
どう控えめに見てもかなりのクズだ。
怒った兄貴が問い詰めると、「俺も色々あんだよ」と、もはや言い訳でもなんでもない言い訳をしてうなだれる増田さん。さすがにこの時は兄貴にふざけんな、いい加減にしろと殴られた。「いや、俺がわりぃんだ、殴られても仕方ねぇんだ」としょんぼりしていた。
5.招き猫事件
ソーラー電池のついた招き猫のおもちゃを大量に仕入れた。光が当たると招き猫の腕が上下に動くおもちゃだ。
「これは売れる、俺はこれで成功した!」
売る前から勝利の余韻に浸っている。案の定、まったく売れず在庫の山。
6.本当に奢ってくれた事件
「Iくん、わりぃ、ちょっと詰まっちまって(いつもお前は詰まっているだろうが)、給料日まで少し回してくれねぇか?」
3本指を立てている。3万円貸せのサインだ。「ちゃんと返してよ」といって兄貴は3万円を渡す。
「よし、飯食いに行こっ、俺が奢ってやる」、金がないから金を借りといて、その借りた金で大盤振る舞い。これもかなり間違っていると思うが、本人からすると、一旦借りた金は俺の金、俺の金をどう遣おうが他人にとやかくいわれる筋合いがない、むしろ飯をご馳走するんだから感謝されて然るべきが本人の論理。法的な問題はさておき、生活費に困っているから貸してやった金をこういうふうに遣われるのはなんだか釈然としない。でもせっかくだからみんなでとんかつをご馳走になった。
7.増田リフォームサービス事件
職を変え、今度は住宅のリフォーム業を始めた。元々飛び込み営業が得意であるから水も合ったのだろう、結構仕事が取れ、増田さんはウハウハだ。財布の中に30万円ぐらい入っていた。食事に行くと無理すんなよといって、俺たちからは金を受け取らず全部出す。「は?無理すんな?」、内心お前がいうなと思ったが、素直にご馳走になった。しかし、あるとき、自宅に行ってみると住んでいた貸家のガラスがあちこち割れている。
「どうしたんですか?これ」(俺)
「いや、バカどもが来て、割ってったんだよ」(増田さん)
「すぐに警察行きましょうよ」(俺)
「いやいいよ」(増田さん)
「なんでですか、これだけやられてやった奴が分かってんなら警察に行きましょうって」(俺)
よくよく聞いてみると羽振りが良かったのは本来あり得ない料金でリフォーム工事の契約を獲りまくったから。契約した家のリフォーム工事自体は確かにきちんと行った、それをしないと詐欺で訴えられてしまう。リフォーム工事を頼んだ家も事実喜んでいる。そりゃあそうだ、市価の半値とかで工事を請け負っているんだから。
問題は下請けの職人に仕事をやらすだけやらせて金をまともに払わないこと。最後は自転車操業もうまくいかなくなり、お得意の言い訳も通用しなくなってしまった。金を払って貰えずキレた職人の何人かが乗り込んできてガラスをバールで叩き割ったのだという。なるほど確かに警察には行けない。今どき、割れたガラスをビニールテープで養生している家ってよっぽどだろう。もちろんガラスを直す金もない。
「覆面くん、ちょっとダメか?」といって指で輪っかを作っている。金の無心だ。すいません、忙しいんでといって俺は帰ってきてしまった。
まとめ
ここに書いたのはほんの一部だ。実はもっと、もっとある、パチンコ店の閉店後の清掃作業を俄かには信じがたい安い料金で請け負い、前金で1年間分の料金を貰っておきながら、数か月やったらとんずらしてしまった話とか、知的障害者のサブちゃんをたぶらかしてサラ金で散々借金をさせた挙句(本人はブラックリストに載っているため借りられない)、増田さんが殆どその金を遣ってしまったとか。この手の話は枚挙に暇がない。とにかく金にだらしなく、平気で嘘をつく、ただ、面倒見がいいところもあり、近所に困っている年寄りがいたりすると荷物運びや、伸び過ぎた木の枝の伐採など、困りごとをタダで手伝ってやったりもする。
借りた金でも、金があれば気前よく奢ってくれる。
この増田さん、兄貴よりも年上なのだが、兄貴に何回もぶん殴られている、だが、晩年、兄貴はよく増田さんと遊んでいた。増田さんの家に泊まりに行ったり、日帰りで福島の温泉旅行に行ったりと、体調のいい日は穏やかに過ごしていた。兄貴に電話をすると、「昨日、増田さんと酒を飲んできた」、「増田さんといわき市の風呂に行ってきたよ」と楽しげに語っていたのをよく思い出す。
兄貴はなんだかんだいって増田さんのことが好きだったのだ。
また、先のない兄貴の面倒を見てくれて感謝もしている。兄貴が穏やかに逝けたのは増田さんと楽しく語り合えたことも少なからずあると思う。
悪いところばかりで実際しょうもない人であるが、それでも憎めないところもある。だからこそ、散々人に迷惑を掛けたにも関わらず、未だ地元の茨城にいられるのだろう。ふつうなら多方面から追い込まれてとてもじゃないがいられない。民度が著しく低いのは間違いないが。
>>ゆい^^ちゃん
ヤバい話、文字にすると多方面に迷惑が掛かるため、書けないです……。さすがに殺人事件とかヤクの密売とかはないけど。あと、今はまったくないです。いくら時効でも墓場まで持って行かなきゃならん話が多すぎて。
しかし、だからといって民度の低い人が嫌いかといえば必ずしもそんなことはない。実害を被らない範囲であればむしろ人畜無害の平凡なサラリーマンよりもよっぽど面白かったりする。
かつての仕事の先輩に増田修造(仮名、ほぼ実名)さんという方がいた。この人の民度の低さはけた違い、未だかつてこの人を超える民度の低い人に会ったことがない。色々あり過ぎてどこから書いていいのか迷うぐらいだ。
1.中華屋事件
あるとき、増田さんが近所にいい中華屋があり、ご馳走するから行こうということになった。いつも素寒貧の増田さんが珍しいこともあるものだと兄貴分のIさんと一緒に行ってみた。指定された場所に着くと思わず、のけ反りそうになり、俺はIさんと顔を見合わせた。
「これって単なるラーメン屋じゃないっすか……、自分、いい中華屋っていうからてっきり北京ダックとかフカヒレスープとかの本格的なのを想像してましたよ」
「ああ……」
中に入ると、先に来ていた増田さんが、こっちこっちと手招きをしている。とりあえず、ビールや餃子、炒飯、肉野菜炒めなどを頼み、相応に楽しい時間を過ごす。味はよく覚えていない、覚えていないのは恐らく取り立ててうまくもなければ不味くもなかったからだろう。会計は確か3人で6千円ぐらいだったと思う。たとえちんけなラーメン屋とはいえ、増田さんの招待だ、こちらは奢ってもらえるものと思っている。
「あ、あれ、財布がねぇ」、どうしたんですか、増田さん?
ズボンのポケットをまさぐっている。
完全にやられた。この瞬間、兄貴も俺も悟った、財布がねぇじゃなくてそもそも初めから金を持っていないのだ。ビールを飲みたいがために俺たちはダシに使われたのだ。
「Iくん、わりぃ、一旦立て替えておいて、すぐに返すから」、顔の前に右手を上げてすまんのポーズをしている。兄貴が6千円を出してその場は収まったが収まらないのはダシにされた俺たちの心だ。店を出るなり、「増田さん、今から増田さんのアパート行くべ、財布、家に忘れたんだろ、6千円返せよ」、まあ当然そうなるわな。だが、今日は都合が悪いとか、銀行が閉まってしまいキャッシュカードが使えない(当時はまだコンビニで金を下ろせず)などと、のらりくらり。兄貴も金がないのを分かって追い込んでいる。キレた兄貴に胸ぐらをつかまれたが、俺は知らんぷりをした。兄貴にぶん殴られても致し方ないと思った。結局、増田さんは平謝り、近いうちに返せよといって話を収めた。殴られず。
増田さんと別れ、兄貴と二人になる。
兄貴は、「増田さんってああいう人なんだよ、面白いだろう?」といって笑っていた。
2.二度と敷居をまたぐな事件
増田さんと急に連絡が取れなくなってしまった。兄貴をはじめ、数人が金を貸している(俺は貸していない)。もっとも金と言っても併せて10万円ぐらいの金、そこまでの大金ではない。携帯は止まり、家に行ってもいない。逃げた。過去の会話を思い出すと増田さんの実家は茨城県内の某市某町だったはず、電話帳で調べてみるとその町内に増田という名字は一件のみ。ここが実家だろうと思い、電話をすると兄嫁が電話に出た。
「私、修造さんの友達のものなんですが、修造さんと連絡が取れなくなってしまいこちらにご連絡したのですが、修造さんいらっしゃいますか?」(俺)
「なに、修造!?あのバカ、またなにかやったのか?」(兄嫁)
「いや、特になにというわけではなく、心配だったから電話しただけっす、ハハハ……」(俺)
「あのバカにはうち等夫婦がどれだけ迷惑かけられたことか、あたしの目の色が黒いうちは二度とうちの敷居を跨がせないよ」(兄嫁)
「………………」(俺)
ほうほうの体で俺は電話を切った。まったく関係のない俺が兄嫁にキレられた。
「俺、映画やドラマ以外で、目の色が黒いうちは二度とうちの敷居を跨がせないってセリフ、生まれて初めて聞きましたよ、しかも、肉親ならともかく兄嫁ですよ、なかなか兄嫁に呼び捨てにされた挙句、あのバカ呼ばわりされるってないですよねぇ」、さすがに兄貴もまいったなぁという渋い顔をしていた。増田さん、あんたいったいどれだけ実家に迷惑を掛けたんだよ、こっちが涙が出そうだ。
3.重箱のクソ事件
増田さんは学習教材の飛び込み営業をしていた。初対面の人と話すのも苦ではないため、飛び込み営業は向いていたのだろう。日曜日、農村部の家を訪問すると農家にありがちな引き戸タイプの玄関は開けっ放しだ、しかし、いくら、「こんにちは~」、「すいませーん」を繰り返しても誰もいない。すると玄関の上り口に重箱が置いてあったという。ちょうど腹が減っていた増田さん、重箱をかっぱらって逃げた。もう、このへんからして人として駄目だと思う。確かに田舎の方であると玄関は開けっ放しも珍しくない、勝手に入って野菜や土産物を置いていく人もいる。だが、それを持っていくか、ふつう?
いやー、儲けものしたと喜び勇み、河原で飯を食おうと重箱を開いたら、なんと中身は弁当ではなく、人糞がべったり、増田さん、においと見た目の衝撃に河原でへなへなと腰を抜かしたらしい。「いやー、そういうことってあるんだねぇ」と語っていたが、そもそも人んちの玄関に置いてあった重箱を盗む奴もなかなかいねぇよ。まあ、嫌がらせなのか、重箱に人糞を入れて置いておく、かなりエキセントリックなことではあるが……。
4.父親の葬式事件
父親が亡くなったので仕事を数日休ませてくださいという。イチイチ、新聞のお悔やみ欄を確認され、ああ本当だ、嘘じゃなかったんだと言われてしまうのがいかにも増田さんらしい。父親のお悔やみが事実である以上、我々は香典を包んだ。「ありがとよ、ありがとよ」といって涙を流さんばかりの増田さん、こういう人でも親が死んだら悲しいもんなんだな。
あれから暫く経つが一向に香典返しがない。
別に物が欲しいわけじゃないが、香典を受け取ったらお返しをするのが礼儀だろう。これはおかしいと思い、当時、増田さんと一緒につるんでいた軽い知的障害のあるサブという男に葬式のことを聞くと、「増田やん、葬式なんか行ってねーぞ、なんだか金があるといっておいらに酒ご馳走してくれたわ」、サブちゃんは随分ご機嫌だ。あの兄嫁が本当に敷居を跨がせてくれなかったのか、或いは本人が行きづらかったのか、それとも金が入ったことに浮かれてしまったのか、そこらへんは分からぬが父親の葬儀にも参列せず、みんなから集めた香典で酒盛りをしてしまった。
どう控えめに見てもかなりのクズだ。
怒った兄貴が問い詰めると、「俺も色々あんだよ」と、もはや言い訳でもなんでもない言い訳をしてうなだれる増田さん。さすがにこの時は兄貴にふざけんな、いい加減にしろと殴られた。「いや、俺がわりぃんだ、殴られても仕方ねぇんだ」としょんぼりしていた。
5.招き猫事件
ソーラー電池のついた招き猫のおもちゃを大量に仕入れた。光が当たると招き猫の腕が上下に動くおもちゃだ。
「これは売れる、俺はこれで成功した!」
売る前から勝利の余韻に浸っている。案の定、まったく売れず在庫の山。
6.本当に奢ってくれた事件
「Iくん、わりぃ、ちょっと詰まっちまって(いつもお前は詰まっているだろうが)、給料日まで少し回してくれねぇか?」
3本指を立てている。3万円貸せのサインだ。「ちゃんと返してよ」といって兄貴は3万円を渡す。
「よし、飯食いに行こっ、俺が奢ってやる」、金がないから金を借りといて、その借りた金で大盤振る舞い。これもかなり間違っていると思うが、本人からすると、一旦借りた金は俺の金、俺の金をどう遣おうが他人にとやかくいわれる筋合いがない、むしろ飯をご馳走するんだから感謝されて然るべきが本人の論理。法的な問題はさておき、生活費に困っているから貸してやった金をこういうふうに遣われるのはなんだか釈然としない。でもせっかくだからみんなでとんかつをご馳走になった。
7.増田リフォームサービス事件
職を変え、今度は住宅のリフォーム業を始めた。元々飛び込み営業が得意であるから水も合ったのだろう、結構仕事が取れ、増田さんはウハウハだ。財布の中に30万円ぐらい入っていた。食事に行くと無理すんなよといって、俺たちからは金を受け取らず全部出す。「は?無理すんな?」、内心お前がいうなと思ったが、素直にご馳走になった。しかし、あるとき、自宅に行ってみると住んでいた貸家のガラスがあちこち割れている。
「どうしたんですか?これ」(俺)
「いや、バカどもが来て、割ってったんだよ」(増田さん)
「すぐに警察行きましょうよ」(俺)
「いやいいよ」(増田さん)
「なんでですか、これだけやられてやった奴が分かってんなら警察に行きましょうって」(俺)
よくよく聞いてみると羽振りが良かったのは本来あり得ない料金でリフォーム工事の契約を獲りまくったから。契約した家のリフォーム工事自体は確かにきちんと行った、それをしないと詐欺で訴えられてしまう。リフォーム工事を頼んだ家も事実喜んでいる。そりゃあそうだ、市価の半値とかで工事を請け負っているんだから。
問題は下請けの職人に仕事をやらすだけやらせて金をまともに払わないこと。最後は自転車操業もうまくいかなくなり、お得意の言い訳も通用しなくなってしまった。金を払って貰えずキレた職人の何人かが乗り込んできてガラスをバールで叩き割ったのだという。なるほど確かに警察には行けない。今どき、割れたガラスをビニールテープで養生している家ってよっぽどだろう。もちろんガラスを直す金もない。
「覆面くん、ちょっとダメか?」といって指で輪っかを作っている。金の無心だ。すいません、忙しいんでといって俺は帰ってきてしまった。
まとめ
ここに書いたのはほんの一部だ。実はもっと、もっとある、パチンコ店の閉店後の清掃作業を俄かには信じがたい安い料金で請け負い、前金で1年間分の料金を貰っておきながら、数か月やったらとんずらしてしまった話とか、知的障害者のサブちゃんをたぶらかしてサラ金で散々借金をさせた挙句(本人はブラックリストに載っているため借りられない)、増田さんが殆どその金を遣ってしまったとか。この手の話は枚挙に暇がない。とにかく金にだらしなく、平気で嘘をつく、ただ、面倒見がいいところもあり、近所に困っている年寄りがいたりすると荷物運びや、伸び過ぎた木の枝の伐採など、困りごとをタダで手伝ってやったりもする。
借りた金でも、金があれば気前よく奢ってくれる。
この増田さん、兄貴よりも年上なのだが、兄貴に何回もぶん殴られている、だが、晩年、兄貴はよく増田さんと遊んでいた。増田さんの家に泊まりに行ったり、日帰りで福島の温泉旅行に行ったりと、体調のいい日は穏やかに過ごしていた。兄貴に電話をすると、「昨日、増田さんと酒を飲んできた」、「増田さんといわき市の風呂に行ってきたよ」と楽しげに語っていたのをよく思い出す。
兄貴はなんだかんだいって増田さんのことが好きだったのだ。
また、先のない兄貴の面倒を見てくれて感謝もしている。兄貴が穏やかに逝けたのは増田さんと楽しく語り合えたことも少なからずあると思う。
悪いところばかりで実際しょうもない人であるが、それでも憎めないところもある。だからこそ、散々人に迷惑を掛けたにも関わらず、未だ地元の茨城にいられるのだろう。ふつうなら多方面から追い込まれてとてもじゃないがいられない。民度が著しく低いのは間違いないが。
>>ゆい^^ちゃん
ヤバい話、文字にすると多方面に迷惑が掛かるため、書けないです……。さすがに殺人事件とかヤクの密売とかはないけど。あと、今はまったくないです。いくら時効でも墓場まで持って行かなきゃならん話が多すぎて。