ルポ・特殊詐欺を読んで
- 2022/12/01
- 20:59

振り込め詐欺などの特殊詐欺、なんでこれってなくならないのか不思議でならなかった。
頂点に属する人間に司直の手が伸びることは殆どない。下っ端の出し子や受け子が捕まったところで、下っ端は頂点の存在をそもそも知らない、それゆえ警察でどんなに厳しい取り調べを受けても知らないものは知らないため、答えようがない。また、取り調べの刑事も、相当強い口調で、「しらばっくれんな、吐け」ぐらいのことは言うだろうが、その恫喝が空虚な響きでしかないのは当の刑事が何よりも一番よく分かっているはずだ。
ずーっと不思議に思っていた。いくら金欲しさとはいえ、もっともリスクが高い出し子や受け子をなんでしてしまうのか、愚か過ぎやしないかと。日夜、特殊詐欺がこれだけテレビ、新聞、ネットニュースを賑わしていることをよもや知らぬはずがなかろう、捕まったらすべてを失う。
ちなみにツイッターで「裏バイト」と検索してみた。
たまたま引っ掛かったのが以下のツイート。
『高額アルバイト!//闇バイト/裏バイト/高収入/高額バイト/日払い/高収入バイト/資金調達
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闇バイト
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裏バイト
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これが果たして出し子や受け子の募集なのかどうかは分からないが、凡そまともな仕事じゃないことぐらい容易に察しがつく。恐らくだが、こんな陳腐なツイートに食いつくのは借金取りに追い込まれ、手っ取り早く金が欲しくてしょうがない切羽詰まった人間か、荒事を厭わない根っからの犯罪者気質の人間かのどちらかだと思う。
後者はまあいい。この手のバカとはいうのは世の中に一定数存在する。名古屋市に住むOLが犠牲になった闇サイト殺人事件がその典型だ、死刑は別にしても、服役することなど屁とも思わないクズ、そんなクズが世の中には確実に存在する。
それは留置場に行くとよく分かる。留置場の住人の8割が窃盗犯か違法薬物事犯。しかも泥棒にしろ、シャブ中にしろ、殆どが累犯者だ。奴らの口癖は決まって下手を打っちまった。贖罪の言葉を殊勝にも述べている人間をついぞ見たことがない。唯一の反省が、「組む相手を間違った」とか、「逃げるルートを誤った」とか、あくまでも捕まってしまった経緯に対する、よもや反省とは呼べぬほど粗末な反省の弁。
そういった生粋の悪人は別にして、借金返済で手っ取り早く金が欲しい人間、では彼らが何故高いリスクを犯してまで受け子や出し子に手を染めるのか、これが今ひとつ理解できないでいた。
現在、振り込め詐欺に携わると被害金にもよるが一発実刑判決が濃厚だ。初犯でも執行猶予はつかないケースが多く、しかも被害件数、被害金の多寡によっては躊躇なく長期刑を科せられる。
たとえ成功したところでせいぜい数万円から数十万円の報酬、大半は上に吸い上げられてしまう。その後の人生を考えると出し子や受け子など凡そ割の合う犯罪ではない。いくら尻に火が点いた切迫した状況だとはいえ、正直、理解できなかった。
しかし、この本を読み終えてやっとわかった。
上記のツイートがもし仮に出し子募集のツイートだとする。DM(ダイレクトメッセージ)を送ると、恐らく初めは丁寧な返信があるはずだ。そこで免許証など身分証明書を送ってしまったら最後である。
住所さえわかれば住んでいる場所の特定をすることなど容易い。グーグルマップで住所を調べ、ストリートビューで住まいを確認すればいい。また、ツイッター経由であると当然過去のツイートに家族や職場、恋人、友人などの写真が掲載されていることがある。つまり、これはヤバいと思い、断ろうと思っても、家族を殺す、家を滅茶苦茶にしてやる、職場(若しくは学校)に全部バラす、或いはネットにお前の個人情報ばら撒いてやると、それを元に脅されてしまうのだ。
ここで開き直り、警察に駆け込めばいいのだが、そんなことをしたら本当に家族が殺されてしまうと思ってしまう。まさに悪党の思うつぼだ。
これらの脅しはまずブラフだと思っていい。たかだか出し子をするのを断ったからと言って、本人やその家族を殺すとは思えない。殺人事件になれば警察も本格的に捜査をする。冷静に考えればわかると思うがわざわざ出し子を断ったぐらいで殺人をするはずがなかろう。
被害者から受け取った金を上に渡さず持ち逃げすれば奴らもそれこそ必死になって追いかけてくるだろうが、出し子や受け子をしなかったからといって殺人事件を犯すとは到底思えない。今の世の中、至る所に監視カメラが設置されている。殺人を犯した時点でそいつのシノギはパーだ。シノギとリスクを秤にかけたとき凡そ割りが合わないことは自明だ。
この手の知能犯は恐怖心を上手に使い、徹底的に恐怖心を植え付けるが、その恐怖心も根っからのサディスティックな性嗜好ではなく、あくまでも商売道具としての恐怖心に過ぎず、常にあるのは打算。
彼らは決して間尺に合わないことをしない、出し子になるのを直前になってやめたとしても、サディスティックな衝動からその辞退者を追い込むような真似はしまい。
だからせいぜいされてもネットに個人情報が晒されるぐらい、それだって長い期間懲役に行くよりは何倍もマシな話だろう。事実、最近は随分減ったがかつての闇金がそうだった。
家族の写真を送り付け、殺すぞぐらいの脅しはしてくるだろうが、数万円程度の債務で殺人を犯すバカはいない。しかも既に元金の何倍も回収している。脅すのはまだ絞り取れると思っているからであり、警察が介入するとそれすらも止まる。
警察に相談すると、「あんたもこんなのに申し込んでなにを考えてんだ、今、特殊詐欺が社会問題になっているのは分かっているでしょう」と二言三言の小言、嫌味は言われるだろうが、まだ犯罪に加担していない以上、警察に逮捕されることはない。書類送検すらない。自分の愚かさを洗いざらい喋るべきだ。
すべてを失ってからでは遅い。